連載29 「『3びきのくま』の結末は?」
イギリス民話「3びきのくま」は、たくさんの画家が絵本にしていて、比べ読みが楽しいです。ロシアの文豪、トルストイも再話しているほど、有名な民話です。
「3びき」とは、とうさんぐまと、かあさんぐまと、こぐまです。私は、この子をなぜか坊やとばかり思いこんでいたのですが、ジャン・ブレット作の『3びきのゆきぐま』(拙訳 ほるぷ出版)では、「彼女」となっていました。「えっ、女の子? そうか、女の子でもよかったんだ。女の子だとうれしいのはなぜだろう」と思って絵を見直すと、こぐまはワンピースを着ています。フードや房飾り、ブレードや毛皮飾りに、こまやかな手仕事がふんだんにほどこされた、いかにも女の子らしいすてきなドレスです。これはうれしいです。
絵本の舞台は森ではなく、なんと北極圏の氷の上、主人公の少女はイヌイットで、3びきのくまは白くまという設定です。
ある日、アルーキは犬ぞりに乗って、さかなつりにやってきました。つりに夢中になっている間に、そりと犬たちは氷の浮き島ごと、海に流されてしまいました。アルーキが犬を探していると、立派なイグルー(氷のブロックで作った家)がありました。これは3びきのゆきぐまの家で、くまたちは散歩に出ており、るすでした。アルーキは、中へ入っていきます。そこには大中小の3つのスープの器がありました。アルーキは、全部ためして、熱すぎずぬるすぎない、小さいボウルを選んで飲みほしました。
次の部屋には、きれいなブーツが3足並んでいます。アルーキは、大中小3足のブーツから、ぶかぶかでもはではででもない、小さいブーツを選んではきました。
次の部屋には3つのベッドがありました。硬すぎも柔らかすぎもしないふとんを選ぶと、アルーキはブーツを脱ぐ間もなく眠りにおちました。
さて、ゆきぐま一家は散歩の途中で、海に流された犬ぞりと犬たちを、家に連れて帰りました。すると、誰かが勝手に家に入った気配があります。なくなっているものまであります。くまたちが、眠りこけている侵入者を発見した時、アルーキは目を覚まして、大あわてでとうさんぐまの、巨大なふかふか足をくぐって外に出ました。そこに待っていた犬ぞりで駆けながら、アルーキはくまたちに「ありがとう」と手を振ります。くまたちは「さよなら、さよなら、またきてね」と応えました。
オリジナルの昔話では、女の子は、好奇心からくまの家に入り込み、例えば「気持ちいいから」と、小さいいすを揺すりすぎて壊します。そして見つかったら大あわてで逃げ出したままで終わりますから、結末がずいぶん違います。
この絵本のお話は極寒の地です。アルーキは好奇心からくまの家に入ったのではなく、通学途中で困った目に遭った小学生が、「こども110 番の家」に飛び込むようなものだったろうと思います。アルーキは、このあとお土産を持って、再びくまのイグルーを訪れるのではないでしょうか。うっかりはいてきてしまった、こぐまのブーツを返すためにです。このブーツは、アルーキの好みにぴったりの愛らしい品のよさで、サイズもちょうどでした。アルーキとこぐまは、きっといい友だちになるでしょう。なにしろ衣(ブーツ)、食(スープ)、住(ベッド)の好みがぴったりな上に、足の大きさまで一緒なのです。気が合いそうです。双方、つよそうなたくましそうな女の子ですから、なかよしの楽しい日々になるでしょう。私が子どものときからずっと知りたかった、「3びきのくま」のほんとの結末が、ここにある気がしました。
画家のジャンさんは、カナダ北部を訪れたとき、自作のきれいなパーカを着たおかあさんたちと、しっかりした子どもたちの歓待を受けました。それがこの絵本を描くきっかけになったようです。表紙をめくってすぐの見返しには、極北の動物たちが、ぬくぬくとかわいいデザインの毛皮のパーカやジャンプスーツを着て、日々の仕事にいそしむところが描かれます。白、灰、チャコールグレー、ベージュ、茶、焦げ茶といった、染めないもともとの色だけで、こんなにすてきな服ができるのかと、目が吸い寄せられます。ジャンさんの、手仕事への憧れも感じる絵本です。